【芭蕉がまたぐ江戸と平成】—荒川ワクワク防災&景観マップ 南千住版—

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東京都荒川区は、木造密集地や細い路地、隅田川の護岸対策など、防災の面で様々な課題を抱えています。
一方、景観の観点から見てみると、”弱点”とされるそれらは下町らしい特徴的な景観をつくり出しています。そこで荒川区景観まちづくり塾では、荒川区を〔①町屋・荒川〕、〔②尾久〕、〔③日暮里〕、〔④南千住〕の4つの地域に分け、街の防災・景観について調査を行いました。

その調査の結果をもとに、「防災&景観マップ」を作成、荒川区景観まちづくりシンポジウムにて「荒川区景観まちづくり塾」一年間の成果を報告するイベントが開催。塾長の篠原修(東京大学)さん、講師の岡田智秀さん(日本大学)を審査員に迎え、4つのグループごとにプレゼンテーション。

僕たち南千住班は「芭蕉がまたぐ江戸と平成」と題して、南千住の景観・防災のルーツをひも解きながら、景観・防災に関するスポットに親しもうというまち歩きマップを作成。
景観・防災の専門家であり、かつ南千住にゆかりのある俳人 松尾芭蕉にお願いして、一緒に俳句を詠みながら南千住のまち歩きを楽しむという企画です。

 


 

◉ 作品/【芭蕉がまたぐ江戸と平成】 -荒川ワクワク防災&景観マップ 南千住版-

<一面(PDF)>

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<二面(PDF)>

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※地図は東京都縮尺2,500分の1地形図(平成27年度版)を使用

 


 

◉ 作品ができるまで(「荒川区景観まちづくり塾」第1期の活動について)

1.背景 -なぜ景観と防災、両方なのか?-

HAIKUtrip_22地域危険度マップ (東京都都市整備局)

 

広範囲が濃い赤で塗られた”危険なまち”、
荒川区はいわゆる”下町”と呼ばれるエリアですが、東京都都市整備局が公表する「地域危険度マップ」を見ると、地域危険度と”下町”には強い相関関係があることがわかります。
下町的景観の特徴として、高密度で建ち並ぶ古い木造家屋、その間を縫うように走る曲がりくねった細い路地などが挙げられますが、荒川区では広範囲にそのような景観が広がっています。

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古い木造家屋は地震に対して弱いというだけでなく、それらが密集することで火災時には延焼しやすく、細い路地からは消火しにくい、このように防災面で大きな危険性をはらんでいます。
また、区界には大きく弓状に張り出した隅田川が流れ、周辺の地盤が比較的弱く、護岸対策にも追われる現状があります。

これらに対して、単に新しい建物に更新し、道路を拡幅するなどの防災対策を講じた場合、それらがつくり出してきた荒川区の特徴的な景観としての”下町”らしさが失われてしまう可能性があります。
つまり、荒川区の都市的な課題を解決するためには、防災と景観を一体的に考えることが求められています。

そこで荒川区は、住民とともにこれらの課題に取り組むための活動として、2016年春、「防災と景観」をテーマに「荒川区景観まちづくり塾」を開講しました。

 

2.講義 -「荒川区景観まちづくり塾」の活動-

「荒川区景観まちづくり塾」は、全9回のカリキュラムで構成され、専門家を招いた講義や、学生をファシリテーターとして開催されたワークショップ、成果を発表するプレゼンテーション・講評会が開催されました。
初年度の活動としては、自分たちのまちの持つ景観的・防災的・歴史的な資源には一体どんなものがあるのか、現状を把握することが目標として掲げられました。

HAIKUtrip_28講義では、住民主体の公園づくり・運営の方法や、関東大震災を事例に、身近な緑がいかに防災的に重要かなど、毎回様々な講師を迎えて、他地域の景観や防災の先進的な取り組みが紹介されました。
それら講義を踏まえ、日本大学理工学部まちづくり工学科教授の岡田智秀教授と同研究室のファシリテートのもと、まちあるき、及びマップ作成のワークショップを開催。
荒川区を〔①町屋・荒川〕、〔②尾久〕、〔③日暮里〕、〔④南千住〕の4つの地域に分け、各グループごとに景観的・防災的・歴史的な資源の調査結果を落とし込んだ「荒川ワクワク防災&景観マップ」を作成していきます。

 

3.調査 -南千住はどんなところ?-

南千住は、人口約45000人、一丁目から八丁目までの八つの地区があり、街の東側に高層マンション、西側に住宅街が広がっています。中央部には、街を東西に仕切るように、JR常磐線・東京メトロ日比谷線・首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの高架が設けられています。

まちあるきを通じて、江戸北側の玄関口としての旧日光街道、その昔汐入にあった運河とJR貨物隅田川駅、汐入のスーパー堤防、小塚原刑場跡、「おくのほそ道」旅立ちの地としてゆかりのある松尾芭蕉、都電荒川線の三ノ輪橋駅やその周辺に広がる路地裏の風景、コツ通りのももの木に代表される街路樹による景観づくりなどが南千住のキーワードとして挙げられました。

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議論の中でこれらは、「江戸時代にゆかりのあるもの」と、「平成になって整備されたもの」に大きく分類できることがわかってきました。さらにこれらキーワードをマップ上に落としてみると、高架によって分けられた街の東側に「平成になって整備されたもの」、街の西側に「江戸時代にゆかりのあるもの」というように、それぞれ振り分けられました。

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そこで、街の東側、南千住駅から旧汐入地区の再開発が進む範囲を【平成エリア】、街の西側、江戸の面影を残して、下町風情を感じる範囲を【江戸エリア】と呼ぶこととしました。さらに、これら2つのエリアに加えて、南千住駅前にまるで2つのエリアをまたぐように設けられた【松尾芭蕉像】、これらを物語の中心として、南千住の街を捉え直すことに。

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4.製作/プレゼンテーション -南千住と景観・防災と松尾芭蕉-

HAIKUtrip_812つのエリアをまたぐように立つ松尾芭蕉像、
彼は、紀行文「おくのおそ道」に代表される俳人であり、旅やその道中に詠まれた俳句を通じて、これまで多くの風景にふれてきました。
また、三十代半ば頃から数年間、神田上水の改修工事に工事監督として従事したという記録も残っています。
景観の専門家でありながら、土木・防災の専門家でもある、さらに「おくのほそ道」旅立ちの地として南千住にゆかりがある、そんな松尾芭蕉と一緒に、俳句を詠みながらまちあるきしようという企画を「芭蕉さんとまちあるきMAP」として作中に盛り込みました。

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松尾芭蕉を通じた景観的・防災的・歴史的なスポットの紹介や、課題について指摘とともに、南千住班メンバーが詠んだ俳句から、南千住のまちを楽しみながら知ってもらおうという狙いです。

これらの内容について、「荒川区景観まちづくりシンポジウム」にてプレゼンテーションを行いました。

<プレゼンテーションスライド>

【芭蕉がまたぐ江戸と平成】
南千住班、作成ポスター。
1960年代の南千住の航空写真。

まちの東側に運河。明治29年(1896年)には貨物用の駅が設けられ、南千住は運河を使った輸送の拠点でした。

弓状に張り出した隅田川には鉛直護岸のカミソリ堤防が設置。事前に氾濫が予測できたときは、その一部をあえて壊して、まちに氾濫させてしまう治水方式を採用していました。

そのため、運河沿いに砂尾堤という堤防がつくられ、ライフライン施設や住宅はあらかじめ地盤をかさ上げして対応していました。

千住大橋のたもとには水運を利用した木材問屋が建ち並び、南千住の発展に大きく影響を与えました。芭蕉も船でこの川を渡り、南千住からおくのほそ道の旅に出ました。隅田川は南千住を語る上で、やはり重要な役割を担っています。

千住大橋に向かって延びる通り、コツ通りは旧日光街道の宿場町として栄えました。コツ通りの道中にあるスサノオ神社には、邪気を払うとされる桃の樹が植えられています。

また、まちの西側は住宅地となっており、すでに路地裏の風景が広がっていました。

この1960年(昭和35年)から、現代に時を移します。

人口45000人ほど、南千住は多くの人が住む住宅地に変わりました。隅田川沿いは、カミソリ堤防からスーパー堤防に変わっています。また、運河がなくなり、高層マンションが建ち並びます。一方まちの西側はさほど大きく変わっていません。

まちの東側の変化については、明治43年(1910年)の大災害を契機に見直された治水対策により、再開発が行われたことによってもたらされました。

一方西側は、旧日光街道のコツ通りを中心に、小塚原刑場跡である延命寺や回向院、大名屋敷などの江戸を想わせる施設を残しながら、細い路地が下町らしさを感じさせる、そんな場所です。

そこで南千住を東西ふたつに分け、江戸の面影を残す西側を【江戸エリア】、平成にかけて再開発が進められた東側を【平成エリア】とします。まちの真ん中にはふたつのエリアを仕切るように走る電車の高架が走っています。

そして、まちのおへその位置に南千住駅がありますが、駅前にまるでふたつのエリアをまたぐように建つ芭蕉像があります。「江戸エリア」「平成エリア」「松尾芭蕉像」これらを物語の中心として南千住を捉え直したい、そういう想いを込めて、

南千住のキャッチコピーは「芭蕉がまたぐ江戸と平成」としました。

ところで、この松尾芭蕉、言わずと知れた俳人ですが、旅や、その道中に詠まれた俳句を通じてこれまで多くの風景にふれてきました。また、神田上水の改修工事に工事監督として従事していたという記録が残っているように、景観だけでなく防災の専門家でもある、

さらに代表作「おくのほそ道」は南千住から旅立ったと言われている、そんな南千住にもゆかりのある芭蕉さんにお願いして、一緒にまちを歩いてもらいました。

芭蕉と一緒に俳句を詠みながらまちを歩き、景観・防災のポイントを楽しみ、親しもうという企画です。これらのうち、いくつかのスポットについて、メンバーが詠んだ俳句とともにご紹介します。

まずは「おくのほそ道」旅立ちの地と言われている千住大橋から

「行春や鳥啼き魚の目は泪」
これはおくのほそ道の矢立初めとして、旅立ちの別れ表した句。初代の千住大橋は家康が江戸に入って最初に架けた橋で、江戸北側の玄関口で、芭蕉もここから旅立ちました。

次はスーパー堤防

「青空にさくら舞うやスーパー堤防」
川沿いに桜が植えられた、ゆるやかな丘のような堤防です。カミソリ堤防と比べて、スーパー堤防は壊れにくいように高くゆるやかにつくられています。

高くつくられているのでスカイツリーも見渡せ、隅田川花火大会のビューポイントにもなっています。

そして汐入水門跡

「水門にかるがも遊び葦しげる」
昔、運河があったことを忍ばせる、気持ちのいい場所です。

そして隅田川駅

「夕雲より長くたなびく貨車の列」
運河を利用した輸送拠点だった南千住。いまも貨物専用駅として残っています。

さて次は街路樹、ちょっと植物が見やすいように背景を黒くします。先ほど紹介した砂尾堤は桜並木になっています。

「満開の桜を傘に歩くみち」
この砂尾堤から奥の隅田川沿いのスーパー堤防まで桜並木は長く延びています。

次はこのコツ通り、

「花桃やすさのおさまとコツ通り」
スサノオ神社には桃の樹が植えられていますが、この通りにも住民の願いが叶い、同じ桃の樹が植えられる予定。

他にも「ハナミズキ通り」「けやき通り」「とちのき通り」「くすのき通り」など、通りごとに樹種を変えて多様な風景をつくり出しています。講義の中でも身近な緑を知ることは防災的にも景観的にも有効であるというお話がありました。「まちの緑をもっと知り、地域で協力して育てて、その風景を楽しんでほしい」と芭蕉さん。

そして路地裏

「折々の季節を知るや路地の鉢」
細く曲がりくねった路地裏の景色は下町らしい風景をつくっています。

「もつ煮込みグイッと一杯疲れとれる」
その路地に面したお店で、路地とともに下町らしい生活や食べ物を感じられる、そんな場所です。

最後に、まちに点在する防災井戸です。
僕たちは今回、公園や防災広場、路地裏に7つ発見することができました。

「路地裏の井戸には人の集いあり」
例えば避難訓練で防災井戸を探し歩くようなゲームをして防災井戸に親しみ、本当に集いのための場所になれば、きっと防災としても、下町の景観としても素晴らしいまちの資産になるのではないか、そんな風に芭蕉さんは話してくれました。

 

他のグループの作品は荒川区景観まちづくり塾ホームページよりご覧いただくことができます。
・【町屋・荒川地域 景観と防災マップ】 町屋・荒川エリア
・【尾久防災迷路攻略マップ】 尾久エリア
・【ひぐらしの里と再開発】 日暮里エリア

荒川区景観まちづくり塾ホームページ:https://www.city.arakawa.tokyo.jp/kankyo/machidukuri/keikan/keikanjuku.html

 


 

◉ 成果報告イベント「荒川区景観まちづくりシンポジウム」について

荒川区景観まちづくりシンポジウムでは、一年間の活動の成果報告として、各グループが作成した「荒川ワクワク防災&景観マップ」をプレゼンテーション。
私たち南千住班は【芭蕉がまたぐ江戸と平成】について報告し、来場者からの投票にて最多得票を獲得、オーディエンス賞を受賞しました。

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・シンポジウム概要

荒川区景観まちづくりシンポジウム
期間:2017.3.3(fri) 18:00 - 20:30
場所:ムーブ町屋(ムーブホール)
講評:篠原修(東京大学名誉教授、GSデザイン会議代表)/岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)
主催:荒川区/荒川区景観まちづくり推進委員会
後援:荒川区建設業協会/東京都建築士事務所協会荒川支部/東京商工会議所荒川支部/荒川ケーブルテレビ
イベントホームページ:https://www.city.arakawa.tokyo.jp/event/zenevent/keikansymposium.html

<告知ポスター>

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◉ 荒川区景観まちづくり塾について

HAIKUtrip_85日々の生活が営まれている街には様々な景観があります。良い景観は住環境を整え、生活に潤いをあたえてくれます。また、 荒川区における重要な課題に「防災」があります。首都直下地震が想定されている現在、木造密集市街地を多く抱えた荒川区では、区民の安全・安心のために数 多くの防災に関する施策を進めています。
そこで、「防災と景観」をテーマに「景観まちづくり塾」を開催いたします。慣れ親しんだ街の風景の中に 溶け込み良い景観を造る防災対策、災害に強く、風景を愛でながら愛着の持てる街を作るにはどうしたらいいのかなど、「防災」と「景観」の両輪で進めるまち づくりについて、一緒に学び考えていきます。
(「荒川区景観まちづくり塾」ホームページより)

全9回のカリキュラムで構成され、専門家を招いた講義や、学生をファシリテーターとして開催されたワークショップ、成果を発表するプレゼンテーション・講評会が開催されました。
<告知ポスター>

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・カリキュラム(全9回)

第1回 講義1「下町の風情とは・・・」
日時:平成28年6月25日(土)15:00-17:00
講師:篠原修(東京大学名誉教授、GSデザイン会議代表)

第2回 講義2「荒川区の景観計画と防災計画」
日時:平成28年7月30日(土)13:30-15:30
講師:松崎保昌(荒川区再開発担当部長)

第3回 講義3「江戸・東京から学ぶ都市の防災と身近な緑」
日時:平成28年9月10日(土)13:30-15:30
講師:中島宏(公益財団法人都市防災美化協会 理事長)

第4回 講義4「住民参加の景観まちづくり-豊田市から事例紹介」
日時:平成28年9月24日(土)13:30-15:30
講師:木下規詞(近自然技術研究所代表・豊田市在住)

第5回 講義5「住民参加の景観まちづくり-私たちにできること」
日時:平成28年10月1日(土)13:30-15:30
講師:岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)

第6回 まちあるき「防災の知恵と風景を発掘する」
日時:平成28年10月15日(土)13:30-15:30
講師:岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)

第7回 ワークショップ
日時:平成28年11月12日(土)13:30-16:00
講師:岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)

第8回 ワークショップ
日時:平成28年12月17日(土)13:30-16:00
講師:岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)

成果発表会・修了式 荒川区景観まちづくりシンポジウム
日時:平成29年3月3日(金)18:00-20:30
審査員:篠原修(東京大学名誉教授、GSデザイン会議代表)/岡田智秀(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)

荒川区景観まちづくり塾ホームページ:https://www.city.arakawa.tokyo.jp/kankyo/machidukuri/keikan/keikanjuku.html

 


 

◉ 南千住班メンバー

塾生:原田シズエ/萩原三郎/山本展久
世話人:関智子/長澤慎二
ワークショップファシリテーター(日本大学学生):関根博史/柴崎拓巳/鈴木真生

 

※地図:東京都縮尺2,500分の1地形図(平成27年度版)
※地域危険度マップ :東京都都市整備局
※航空写真:国土地理院
※南千住写真(一部):関智子(荒川区景観まちづくり塾  世話人)

 


 

【芭蕉がまたぐ江戸と平成】
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